《創設まで》
日本の児童精神医学の黎明期である1950年代は、鷲見たえ子氏が、日本精神神経学会において、日本の自閉症第1号症例である「レオ・カナーのいわゆる早期幼年自閉症の症例」を報告したことに始まる。その後、幼児自閉症および登校拒否の症例報告が増えるなど児童精神医学への関心の高まりを受けて、1958年、日本精神神経学会に「児童精神医学懇話会」が創設され、1960年には同懇話会が発展的に解消して「日本児童精神医学会(後の日本児童青年精神医学会)」が設立された。
児童精神科の入院治療に関しては、1964年1月に日本で初めての自閉症児病棟が三重県立高茶屋病院に「あすなろ学園」として設置された。その取り組みは1967年8月にNHK現代で「孤独な戦い」と題して全国放映され、自閉症治療に対する関心が高まるきっかけとなった。その後、1968年4月には新潟県立療養所悠久荘「のぎく学園」、1968年6月宮崎県立富養園「ルピナス学園」が自閉症病棟を開設した。
1969年9月29日、厚生省は都道府県知事と指定都市市長あての事務次官通達によって、「自閉症児はその大部分が適切な医療や環境を与えられていない・・・・。そのため自閉症児対策として医学的管理の下で療育を行なうこととし、自閉症児療育事業実施要綱の適正かつ円滑な実施を期待されたい」という要請を出したのであった(全国児童精神科医療施設研修会第2回報告集資料参考)。その中で、目的は自閉症児の援護の施策の一環として、自閉症児を自閉症児施設に入所させ医学的管理の下で必要な療育を行いこれらの児童の福祉の向上を図ることとされ、運営に関して職員として医療法に規定する職員のほか児童指導員、保母および心理指導を担当する職員を置くこと、とされた。この通達によって1970年までに開設された各施設には医療施設には認められていなかった多職種(保母、生活指導員、心理指導員)が配置されたのであった。
その後、1969年9月には東京都立梅が丘病院自閉症病棟、1970年7月大阪府立中宮病院「松心園」及び愛知県立心身障害者コロニー中央病院と、全国で計6施設が整備された。しかし、自閉症に対する治療体系がそもそも未確立の分野であり、職員教育や財政面、子どもたちへの教育等、各施設が試行錯誤の状態であった。
こうした状況を踏まえ、児童精神科医療とその関連領域に従事するスタッフの研修及び相互交流を目的に、当協議会の前身である「全国児童精神科医療施設研修会」(通称:全児研)が1971年1月19日に三重県津市で開催された。各施設の代表には、十亀史郎氏(あすなろ学園)、河野厚氏(ルピナス)、石神互氏(松心園)、石井高明氏(コロニー)、中根晃氏(梅が丘)、増村幹夫氏(のぎく学園)と、児童精神科臨床のパイオニアが名を連ねていた。研修会のテーマは「生活指導」であり、加盟施設は上記の6施設、参加人数は54人であった。
以上のように、当協議会の発足当時は、当時の児童精神医学の主な対象である自閉症の入院・入所治療を実践している施設が構成メンバーであった。
《創設以後》
この後、第2回に千葉市立病院と兵庫県立こども病院、第3回に国立国府台病院、第5回に島根県立湖陵病院と市立札幌病院静療院、第8回にともえ学園、第10回(1980年)には神奈川県立こども病院が参加し13施設となった。施設の属性も、総合病院の児童精神科病棟や小児病院の児童精神科病棟と多様となり、対象疾患も自閉症に加えて神経症圏、気分障害圏、精神病圏、摂食障害と広がっていった。しかし、児童精神科病棟が著しい不採算部門であることを主な要因として、その後全国に児童精神科病棟が開設される動きは鈍かった。さらに追い打ちをかけるように、ともえ学園、兵庫県立こども病院、愛知県立心身障害者コロニー中央病院が病棟閉鎖となった。それ以降2002年までの長きにわたり、多少の入れ替わりはあったもの、当協議会の正会員施設は10施設に留まっていた。
こうした状況に加盟施設のメンバーは危機感を抱いていたが、2000年代の後半に入ってから状況が少しずつ変わり始めた。自治体病院を中心に児童青年精神科臨床に取り組む病院が増え、専用病棟、専用病床が少しずつ増えていった。さらに、小児入院医療管理料3(当時)による病棟運営が可能となるなど、採算性も次第に改善し、2012年度の診療報酬改定で特定入院料である「児童・思春期精神科入院医療管理料」が新設されたこともあって、全国的に児童青年精神科専用病棟・専用病床の整備が進んできている。2019年3月現在、当協議会の正会員施設数は31であり、オブザーバー施設数は18である。
なお、名称は、1998年に現在の「全国児童青年精神科医療施設協議会」に改められた。
当協議会では毎年1回、持ち回りで研修会を開催している。主管施設が研修会のテーマを決定し、それにそって各正会員施設は必ず演題を発表することとしている。また、発表者の多くが看護師、心理士、作業療法士、精神保健福祉士などのコメディカル・スタッフであることがこの研修会の大きな特徴である。また、医師、看護師、心理士、精神保健福祉士、教師、保育士、指導員など、各職種ごとにおこなっている「職種別懇談会」は、同じ職種間の交流や情報交換の場として貴重な機会となっている。
さらに、こうした年1回の研修会とは別に、2013年からは、「診療報酬・精神保健福祉法研修会」を開催し、病棟運営に特化した情報交換・研修をおこなっている。